医師事務作業補助者とは、医師が行う業務のうち、事務的な業務をサポートする職種です。その呼称は病院によって様々で、医療秘書や医療クラーク、メディカルアシスタント(MA)などと呼ばれています。診療報酬制度では、医師事務作業補助者の配置人数によって患者一人あたり最大8,100円(入院初日に限る。大学病院本院などの特定機能病院や、診療所は除きます。)を算定することが認められています。
業務内容は診療報酬の施設基準によって定められており、大きく分けると4つの業務があります。もっとも基本的な業務には、診断書や診療情報提供書(いわゆる紹介状)など「医療文書の作成代行」があります。次に電子カルテなど「診療記録への代行入力」があり、これは医師の外来診察など同席して行います。さらには、「医療の質の向上に資する事務作業」として、カンファレンスの準備、がん登録や外科手術の症例登録(National Clinical Databaseの頭文字を取ってNCDと呼ばれています)なども、手広く行います。最後に「行政への対応」があり、これは厚生労働省などに報告する診療データの整理などが含まれます。このように医師事務作業補助者の業務は多岐にわたりますので、実際の業務は病院ごとの実情によって特色あるものになっています。
医師事務作業補助者になるために必要な、免許や経験などは特にありません。複数の民間団体が行う認定試験などがありますが、特定の資格がスタンダードになっている段階ではありません。この職業に就くために必須となる経験もありませんので、様々な背景の実務者が一緒に働いているのもこの職種の特徴といえます。教育背景や経験よりも、むしろ医師や、医師と一緒に働く医療スタッフ(薬剤師や看護師など)や事務職員との連絡や調整が頻繁に発生しますので、これらの職種と上手く関係を築くことができる「コミュニケーション力」が、何よりも求められる能力といえるでしょう。
海外における医師事務作業補助者の歴史は、非常に長いものです。文献によれば、1920年代にはアメリカで同様の職種がおり、診療録の記載などで活躍していたことが判っています。1970年代には業務の内容が確立しており、外来診療などで不可欠の存在になっています。同じくイギリスでも医師事務作業補助者に近い人材が長きにわたって医療現場を支えてきました。わが国では、2008年に診療報酬制度で定義されてから医師事務作業補助者が定着してきたことは事実です。しかし、諸外国ではチーム医療を担う一員としての立場が既に確立おり、わが国でも徐々に追いついていくものと考えられます。
東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科 講師 瀬戸僚馬