平成25年2月2(土)、「NPO法人日本医師事務作業補助研究会主催 配置管理者セミナーin大阪」が大阪市で開催されました。今回は、「医師事務作業補助者の導入効果と継続教育」をテーマにセミナーを企画し、全国から80名を超える配置管理者たちが集い盛会となりました。
内容は、医師、部署責任者、事務長など「配置管理者」と言われる講師陣の講演とパネルディスカッションで構成されたセミナー。医療という大きな枠組みの中で、医師事務作業補助者という職種をどう活かしどこまで業務拡大していけるのかを、貪欲に議論する時間となりました。
まずは、「糖尿病疾病管理の重要性と医師事務作業補助者への期待」と題し、大野昭先生(りんくう総合医療センター診療局長)よりご講演いただきました。同院では、医師事務作業補助者が糖尿病疾病に関するデータ整理や統計調査を行った事例をご紹介されました。膨大な糖尿病患者を等しく管理していた従来に比べ、診療データをデータベース化したことにより特に留意する患者が限定できたことも勤務医負担軽減に有効的であったと述べられました。また、医師事務作業補助者の目を通っていることでデータの質が担保されているというお言葉に、私たち実務者の業務に「精度」が求められていることを再認識しました。
次に、松木大作先生(済生会吹田病院経営企画室)に同院のMS(メディカルセクレタリー/医師事務作業補助者と同義語)の現状と課題についてお話いただきました。特に印象的だったことは、統計やエクセルに関する内容を院内研修で行われているということでした。医学知識は言わずもがなですが、統計やエクセルについては医師事務作業補助者のスキルとして重要な要素であるにも関わらず、苦手意識が克服できない実務者が多いのも現実ですし、自学ではハードルが高いのも必然ですので、このような研修は実践的なスキルアップになると考えます。また、MS導入評価でアンケート調査を実施し、統計データ作成という業務ひとつとっても「任せたい」派と「任せない」派に意見が二分されることも分かりました。病院ごとに医師事務作業補助者へのニーズが違うわけですから、病院ごと、医師ごとのカラーがあってもいいのかもしれません。
講演の最後は、「インパクトを与える医師事務作業補助者としての役割」と題し、久保田巧先生(東大宮総合病院事務長)から、まさにインパクトのあるお話がありました。実際の同院のクラーク室責任者の悩みをどのように解決していったかのご紹介がありました。「病院と芸能事務所は同じ構造である」という見出しに驚きましたが、医師がAKB48だとすると医師事務作業補助者はマネージャーであり、「医師には診療に専念してもらい、医師事務作業補助者は患者さんに満足を与えるパートナーとなること」を本心とすることが大切という言葉に大きく頷きました。また、配置管理者は、病院幹部へインパクトを与えることがミッションだと言われ、「業務の質や種類、業務量の差別化」を示すことで評価も向上し、さらには経営インパクトを与えていくことも重要であるということでした。直接的インパクトの事例として、「医師の負担(神経内科・人間ドッグ専門医)を減らし、眼底検査の読影を受け入れてもらう」といったミッションに対し、医師事務作業補助者が事前調査を実施し問題提起、年間450万円の経費削減を実現、人間ドッグレポートの作成期間も短縮できたという事例を通し、医師事務作業補助者によって経営戦略が変わるという驚愕のメッセージをいただきました。
セミナーの最後は、パネルディスカッション。
まずは5名のパネリストから、医師事務作業補助者の業務拡大と教育についての総括的なお話がありました。
瀬戸僚馬先生(東京医療保健大学講師)からは、「医師事務作業補助者は量が充足し質が求められる段階になってきた。これからは業務拡大をどのように行うかが課題。PDCAサイクルを完成させどう改善するかが大切である。医師事務作業補助者の位置づけは経営戦略的な医療秘書か、医療専門職的な医療秘書か、病院(長)の方向性で変容していってもいいのではないだろうか。」という問題提起がありました。さらに、「イギリスでは200時間以上の学習時間があるのに対して、日本は32時間という足枷しかないという現状の中で、その差をどのように埋めていくのか。統一感のある教育設計をどのようつくるのか、多様性の水平展開だけでなく深度の垂直展開も重要で、そもそも多様であっていいのかどうかも考えていく必要はある。また多様性と深度をどのように整理するのか。たとえば、コミュニケーション能力をどのように表現し評価(測る)のか。」と続きました。
田中肇先生(府中病院院長)は、管理者の立場から府中病院の事例を挙げお話いただきました。「医師事務作業補助体制加算がつくずっと以前から勤務負担への医師の不平不満が多かった。さらに電子カルテの導入があったため、必然的に医師の勤務負担軽減が必要であったためMSを導入した。勤務医負担軽減については、MSの導入が最も効果的だったと思う。その中でも一番有り難かったのは診断書業務だった。医師という職種は、患者対応は頑張ることができるが、診療や手術が終わった夕方からの診断書作成業務は心身ともに負担(ストレス)が大きく、それが排除されただけで医師が明るく、殆ど辞めたいといわなくなった。それだけでなく、今では看護師が大変だということで、医師を含む院内全体が(医師以上に)看護師を助けようという雰囲気になっている。」という医師事務作業補助者導入の目的が完遂された現状を惜しむことなくご紹介いただきました。さらに「病院という組織は縦割り・専門職で、蛸壺化しやすいが、(府中病院では)職種間のギャップを調整するのは事務職の役目になっている。職種間の垣根が低くなっているのは事務職員のおかげであり、事務職が病院のエンジンになっているんだということを、配置管理者たちが発信していかなければならない。」「では、管理者として実務者にどういう人を求めるか。調節役として求めるものはコミュニケーション能力。また、自主的に前向きにできるかどうか。内的動機づけが大きいことが大切で、日頃のルーチン業務をきちんとこなしている人をきちんと褒めてあげることがとても重要である(コーチングの承認)。」と結ばれました。
堀田恵先生(府中病院医療情報部課長補佐)からは、前述の田中先生のお話で紹介された府中病院での実務の部分をお話いただきました。支援体制や支援業務として、同院眼科や救急室での取り組みを挙げられ、今後は「化学療法室」の診療支援も視野に入れているということも触れられました。その中で、自主的な学習、勉強会が行えるような環境づくりが重要であると述べられ、同じ実務者としての共通認識であると感じました。
西川由美子先生(済生会吹田病院診療支援部)からは、同院におけるMSの実践報告がありました。同院では、特定の医師や診療科に配置しており、算定スキルをもつMSはレセプトのテクニックも医師に伝えているということで、診療報酬に関するスキルも効果的だと感じました。また、外来診療についていることで患者さんを把握しやすく、診断書や診療予約に関する業務も時間短縮できたということでした。さらに業務の拡大には医師が上手に依頼できることが大切と述べられ、そのためには疾患に対する深い理解度や、医事・レセプトに対する詳しい知識、医師の日常業務に対する熟知等が必要だということでした。
松木大作先生は、マネジメントの観点からお話がありました。組織と個人のベクトルをあわせ、今後は診療科を跨ぐような補助業務を目指しており、管理者としてはMSの個性を見出すことが重要だということでした。
参加者からの質疑応答の場面では、次のような意見交換がありました。
●医師が集まらないのでMSに力を入れているが、外来診療録の記載のイメージがつかずオーダを入力することから始めている。
●実務者が実質5名でこれから拡大しているというところであるが、看護部クラークとの兼ね合いで問題が生じている。
●震災・電子カルテの導入後1年であり、チーム制33科8チームで行っているが、医師事務作業補助者に対する認識に相違があり、看護師が減らされている現場で、看護師が行うような代行入力を行っている。OJTが非常に大きいがチーム同士の不平不満という問題がある。
●府中病院では不平不満などは院長まで上がってこないが、現場で処理を行っているのかもしれない。医師とどれだけコミュニケーションをとって仕事を得られる(任せてもらえる)かだと思う。
●アンケートやヒアリングは有用なので、現場で行ってみてもいいのかもしれない。
●多様性はあっていいが、病院に受容されることが重要。うまくいっている病院には、うまくやっていく事務職のリーダーと医師のリーダーが存在している。
●実務者が40人ほどいる公立病院であるが、その殆どが非常勤職員で一人だけ職員化することができた。
●グループ制を敷かず、院内の役職者順で4人配置した。
最後に研究会顧問の佐藤秀次先生(金沢脳神経外科病院長)が、「病院によって(医師事務作業補助者に対する)ニーズの形は違うが、医師事務作業補助者をどのように活用していくかという方針が最も大切であり、院内においてもこれからの病院経営にとって多職種協同は必要不可欠であることを発信している。そのためには理念を明確にした上で自分たちの役割がどこにあるかを考えなければいけない。」と括られました。
閉会の挨拶では、矢口智子理事長(金沢脳神経外科病院医療秘書室主任)から、現在研究会で大規模なアンケート調査を実施している旨の報告を行い、今回の配置管理者セミナーは終わりました。
「配置管理者」である参加者の皆さんがどのようにお感じいただけたか分かりませんが、明日からの課題や方向性を考えていただくお時間となりましたら、主催者側として大変うれしく思います。会の帰り、この研究会、ひいては病院における医師事務作業補助者という職種そのものは、幕末に開国を迫った黒船来航の様だと思っていました。そう考えると、病院内にも開国を望む仲間が多くいるのかもしれません。そして、今回参加いただいた配置管理者の方々おひとりおひとりが黒船のペリーであり、強いリーダーシップで医師事務作業補助者を導いていただけることを、実務者全員の想いとしてお伝えして報告とします。
NPO法人日本医師事務作業補助研究会 理事 武田まゆみ
(潤和会記念病院 医事部)